明清

明代怪談 隠れ傑作選

「ぬぃの中国文学ノート」にご来訪ありがとうございます。

 こちらの記事では、明代の怪談についてかいていきます。明代と清代って、怪談の雰囲気がまるで違うのですが、すごく雑にいってしまうと『もののけ姫』と『千と千尋』の違いだとおもいます(笑)

 明代の怪談は『もののけ姫』っぽくて、怪異は自然の霊威そのもので、しかも大きなまとまりをもっていて、人間と怪異(自然)は分かれているけれど、ひとときの交流があって――みたいな趣きがあります。

 清代の怪談は『千と千尋』っぽさがあって、怪異は何を考えているのかわからないもので、あちこちに無秩序に涌いていて、しかも人間とたまに関わることもあるけど、怪異には怪異の世界があって……みたいになっている気がします。

清代怪談 隠れ傑作選 「ぬぃの中国文学ノート」にご来訪ありがとうございます。  こちらの記事では、清代の怪談についてかいてみます。明代と清代の怪談って...

 というわけでこちらの記事では、明代の怪談の中から、わたしの好きなものを紹介してみます。

Contents
  1. 巨蟒
  2. 四花姫

巨蟒

永州(湖南省)の野には、古い神廟があり、川は深くめぐり、葦などが黄色く茂っていて、廟(社)のまわりには大木が天まで届くほど高く、ここを通るものはかならず肉などを供えなくてはならず、それを忘れると暴風雨が襲ってきて、暗い霧につつまれ、人も荷物も飲まれてしまうと云われていた。

元の大德年間に、ある書生が、衡州(湖南省の街)に行くことになり、その廟の近くを通ったが、供える肉を買うお金がなかったので、ただ手を合わせて通っていった。すると、数里もしないうちに、風が強くなって石や砂などを飛ばし、黒い雲が涌いてきて、後ろをみると神兵が千騎萬騎ほど追ってきて、これは死ぬかもしれないと思って、日ごろ唱えていた『玉枢経』を、危うい中でも唱えていると、しだいに風雨も収まり、神兵たちもみえなくなっていた。

なんとか逃げ切って衡州まできて、南岳衡山の霊廟に詣でたときに、このことを紙に書いて燃やして訴えておいた。その夜、夢で大きな宮殿によばれ、殿上には玉の簾がかけられていて、簾の内にはさらに黄色い帳がかかっていて、灯りが燃えていて昼のように明るいらしかったが、しんと静まって誰も声を立てなかった。

にわかに一人の役人が「今日の訴えは、どのようなことか」と問うてきて、書生はおそらくあの事かと思い、頭を床につけたまま「わたしはただの書生でして、あの神廟を通ったときにも、供える肉などを買えずに、それゆえ神の怒りに触れてしまい、暴風雨に襲われて、神兵たちに追いかけられましたが、仕方のないことだったのです」と答えた。

役人は御簾の内に入って、しばらくすると……役人たちが数人 空を飛んでいき、一人の白髪の老人を殿前に取り押さえていた。

役人は文書を読みあげて「貴様はひとりの神であろうに、敬われるはずのものが、何ゆえ災いによって人を恐れさせ、しかも供物を貪り、この書生に危うい目をみさせるのか」と問い詰めた。

老人は頭を下げたまま「わたしは永州の廟の神でございますが、実はあの廟は妖蛇が長年住みついており、さきの風雨や供物を貪ることも、そのものが起したのです」と答えた。

役人はさらに「そのようなことをなぜ早く云わない?」ときいたが、老人は「あの者は長い年月を生きた妖蛇にして、災いを起こすばかりでなく、それに従う毒蛇や霊蛇たちも多く、わたしがそれを訴えようとすると、いつも取り巻く蛇たちに噛まれて阻まれ、今日までできなかったのです」と云っていた。

すると、殿上では一人の神将に命じて兵五千をひきいて送りこみ、久くして数十の兵たちが大木をかついで帰ってきたとおもったら、それは額に赤い模様のある白蛇だった。それを殿前に置くと、役人は書生のほうをみて「帰ってよいぞ」と云い、目が覚めると、背中には汗がびったりと流れていた。

書生は用事がすんで帰るときに、ふたたび永州の廟を通ったが、その廟や像などは、ばきばきと焼け焦げてただ荒れた景色だけになっていた。村の者にきいてみると、「ある夜に雷が降ってきて、いつまでもべきべきと砕くような裂くような声ばかりが響いていて、朝にみてみると、廟はすっかり燃え切っていて、大きい白蛇が数十mほどもあるのが、林の下でぐったりと死んでいた。その周りには小さい毒蛇などがたくさん焦げて溜まっていて、その匂いがまだ漂ってくるのです」と云っていた。

永州之野、有神廟、……川澤深険、黄茅緑草、一望無際、大木参天而蔽日、……過者必以牲牢献於殿下、……如或不然、則風雨暴至、雲霧晦冥、……人物行李、皆随失之。
……大德間、書生畢応詳、有事適衡州、道由廟下、囊橐貧匱、不能設奠、但致敬而行。未及数里、大風振作、吹沙走石、玄雲黒霧、自後隠至。回顧、見甲兵……千乗萬騎、自分必死、平日能誦『玉枢経』、事勢既危、且行且誦、……則雲収風止、……所迫兵騎、不復有矣。僅而獲全、得達衡州、過祝融峰、謁南嶽祠、……具状焚訴。
是夜、夢……至大宮殿、……望殿上掛玉柵簾、簾内設黄羅帳、燈燭輝煌、光若白昼、厳邃整肅、寂而不嘩。俄一吏……曰「日間投状、理會何事?」
応祥始悟、稽首而白曰「実以貧故、……道由永州、過神祠下、……不能以牲醴祭事、触神之怒、風雨暴起、兵甲追逐、……誠非得已。」
吏入、少頃……即見吏士数人、騰空而去。俄頃、押一白鬚老人……於階下。
吏宣旨詰之曰「汝為一方神祇、衆所敬奉、奈何輒以威禍恐人、求其祀饗、迫此儒士、幾陷死地。」
老人拝而対曰「某実永州野廟之神也、然而廟為妖蟒所據、已有年矣、……向者駆駕風雨、邀求奠酹、皆此物所為。」
……吏責之曰「事既如此、何不早陳?」
対曰「此物在世已久、興妖作孽、……神蛟毒虺、受其指揮。每欲奔訴、多方抵截、終莫能達。」
……殿上宣旨、……命一神将領兵五千而往。久之、見数十鬼卒、以大木舁其首而至、乃一朱冠白蛇也。置於庭下、……吏顧応祥令還、欠伸而覚、汗流浹背。
事訖回途、再経其処、則殿宇偶像、蕩然無遺。問於村甿、皆曰「某夜……雷霆風火大作、惟聞殺伐之声、……旦往視之、則神廟已為煨燼、一巨白蛇長数十丈、死於林木之下。……其余蚺虺螣蝮之属無数、腥穢之気、至今未息。」(明・瞿佑『剪燈新話』巻三)

 明代の怪談って、なんとなく大きな神々の世界があって、冷酷で上位にいる神々と、どこか感情をおびている(もしくは欲望や妄念すらもっている)神々がいて、祟りを成すのはだいたい感情をおびているような自然の神々だったりします。

 そして、自然の霊威を帯びている神々は、だいたい最後は敗けてしまい、人間とも別れていくのですが、それがすごく『もののけ姫』に似てないですか(すべて一緒ではないけど笑)

『もののけ姫』の自然って、人間にとっては危ないけど、どこか甘くて美しい霊威を感じさせて、しかも泥臭くて不気味な神々がいて、人間は上位の神たちに頼んで、なんとか自然の祟りと折り合いをつけている――みたいなイメージなのですが。

 この話も、読み終わったあとに、廟のある森まで焼けてしまったのが、どこか一抹の悲しさというか寂しさを感じさせるけど、明代の怪談って、怪異が消えてしまったあとにむしろわずかな寂しさを感じるんですよね(私だけかもですが)

四花姫

四川省の眉州では、江のそばに古い廟があり、花蕊夫人(10世紀の後蜀の妃)を祀っているとされていた。廟のそばには鍾氏という旧家があり、そこの娘の嫁ぎ先で生んだ子も、鍾氏の家で書生をしていた。

その書生をしていた子は、顔も整えられていて、清らかな遊びを好み、鍾氏の後庭はとりわけ美しくつくられていて、碧漪堂・水月亭・玩芳亭・醉春館・翠屏軒などの優雅な部屋がならんでいた。

その庭をある日ながめて楽しんでいると、四人の若い娘たちがひらひらと花に囲まれた窓のそばに居たので、この人たちはきっとどこかの親戚つながりだろうと思い、挨拶をしてみると、違うと云われてしまった。ただ、娘たちは恥ずかしがる様子もなく笑っていたので、どこから来たのかきいてみると、「わたしたちは東隣りの花氏の者です。こちらの庭が美しいと聞いていたので、その花を眺めに来させていただきました」と云っていた。

その夜、眠ろうとすると窓をがたがたさせる音がしたので、起きてみると、昼にみた娘の一人が入ってきて、こちらに礼をすると、低く幽雅な声で「私たちは野の草木のごとき身ですが、たまたまお目にかかり、ふと心を動かされて来させていただきました」といって、話が終わるとともに絡みあい、書生はふと「ほかの方々はどうされましたか」ときいてしまった。

娘は「どうぞ明日の夜を待っていただければ、妹たちと楽しみを分け合うつもりでございます」といって、詩をひとつ詠むのですが、「翠の鳳すら塵におおわれて、鏡台も長らく使われず、紅葉の料紙にひとひらの歌をつづれば、蘭の香りのゆれるうちに心の迷うようで、ひらひらと歩けば心のゆれるようで、紅い帷の奥にてどこか崩れるようなのでした」と云い終わると、たちまち月かたむきて、鶏の声もひびき、娘は衣をまとめてさらさらと去っていくのでした。

つぎの晚、その妹は書生とむつまじくして、話しながらしとしとと結び合い、妹も賢く澄んだ心をもっていて、また詩をつくり、「運命の赤い糸の縁は遠くして、わたくしたちはいつもこの想いに沈んでおりましたが、冷えた月の宮殿を抜けだして、風流の詩会に参すれば、春の藻の色のごとき鳥の羽色の帳の中で、香は金の蓮よりこぼれて赤い鳳の靴は置いたままでも、水と魚は百年先までも混ざりあうのです」といって、その妹もさらさらと別れを告げて帰っていった。

その夜、三番目の妹と書生は睦み合い、さらに詩をもとめてみると、「私は、さきの二人ほどの才もありません」と断るので、それでも構わないからといえば「蘭色の寝房はひっそりとして、燈はふっと暗くなるのですが、波の寄せる間に花の萎れるような夜のこと――。柳の葉の如き眉をそむけて、桃の花のような目をふと袖で覆えば、古い縁のふたたび結ばれるような今夜のことは、きっと天の計らいなのでしょう」と詠んだ。

次の夜、四番目の妹は重々しく飾られて現れて、夫婦のごとくして、山海の間に秘め事を語るようにして、またその詩は「春の物憂い御簾のうちに、金の鳳凰は縫いかけなのですが、二羽の鳥の重なり飛ぶのを窓のそとにみるような日に、緑の蔦葛はもやもやとあふれるようで、紅い袖はころころきらきらとした玉をつつむようなのでした。その玉を持たれる方はどこにいるのかも知らぬ春の夜。

これよりのち、四人の娘たちは順番にたずねてきて、その書生はまだ若い身なのに、これほどの喜びを得て、しかも一人のみならず、四人と共にいることを不思議におもって、「峨眉古意」の詩をつくった。その詩はこんなものだった。

峨眉山の古い街は天下でもっとも美しく、峰の烟 雪の嶺が百千も並びて、鳥は剣のごとき山々を囲うように飛び、山中の城寨はうねうねとつづいている。江の流れは小さくわかれて険しく、あちこちに小さい湖なども隠れている中で、車をあちこちの市などに走らせて、広い屋敷の庭園はどこまでも深いのでした

そんな中で、琥珀の枕を緞子でつつみて瀾のような襞を敷いて、玳瑁色の簾は夜の色を吸って青く染まる中で、夕方の雨はしだいに弱くなって、薄い夢ばかりが朝の雲に乱さるのですが、あの湿った目元は秋の水の色を湛えて、淡い眉は春山の碧を浮かべた如く、その眉がわずかに寄せられれば、四方の春の山には、濃やかな香りが蘭のごとく流れて溜まり、宵の間には御簾よりさらさらと洩れるのでした。……この深い想いは誰も知ることもなく、天地の間に千年も留まって、もつれあう蝶の如くひらひらと粉を混ぜ合いて離れないのでしょう。

その詩を四人に示すと、それぞれ優美なことを喜んでいたが、一番上の姉だけはしばらく考えに沈んだのち、「私たち四人はまだ嫁ぐ先も定まらぬ身ですが、あなたはまもなく結婚の話も出て、私たちは離れることになるでしょう。鸞と鳳が離されて、その悲しみは絶えずして、互いに想いつづけるように、今日の歓びをおもうほどに、近い日の災いが怖いのです」と云っていて、それを聞いて妹たちもしなしなと萎れたようになって帰っていった。

一年ほどして、書生には結婚の話が出てきて、娘たちはそれを聞くと、別れの挨拶にきたが、四番目の妹が「あの日の話は本当になってしまい、箏の並び奏でて、いつまでもきらきらとつづいて、人生の楽しみでこれほどのものは無いと願っていたので、わたくしたちはあの庭の翠屏軒にていつまでもお待ちしております」といって、金の釵をぬいて渡した。三人の姉たちも翠の前髪飾り・銀の鐲(腕環)・耳環をそれぞれ渡して、「結婚される方への贈り物にしてください」といって別れていった。

書生が実家にもどると、婚儀の用意はすすんでおり、それが終わると日々は楽しいはずだったが、四人の娘たちのことがたびたび思い出されて、妻が実家に帰ったときに、夢であの四人があらわれた。

二番目と四番目のむすめは笙をならび奏して、ひらひらと重ねていけば、その音は清らかで柔らかく、淑やかで明るく、ひっそりと静かになって、秋の夕露の霞む蝉の声、雲の薄い風に散ることを思わせるようだった。一番上のむすめは眉をよせながら歌い、「白魚の指は冰の爪で、はらはらと筆が落ちるのですが、笙の音は月の色をおびた雲に烟るのでした」と云えば、三番目の娘も「紫の霧は夜に籠り、香の彼方に蠟が紅く垂れました。夏の短夜の明ける前の白さがまた暗くなり、耳飾りと釵も片づけられて、わずかに冷たい緞子の上に明け方の光が射すのでした」と詠んだのでした。

それを聞き終わったとおもうと、夜明けの鐘が遠くからきこえて、茫然たる夢だったのを知り、その詩をまだ憶えていたので書き留めておき、また娘たちに会いたいとおもって、しばらく書生生活に戻りたいと伝えることにした。

娘たちは昔のごとくあの庭にて会えることを喜び、あの夢のことを云うと、「それはきっと想う気持ちの深さ故でしょう」となって、書生はいよいよ娘たちと過ごすようになり、いつまでも書斎と庭を行き来して、半月ほども人に会わなかった。

書生を泊めている家のものは怪しくおもって、ある夜に隠れて様子をみていると、娘たちと月をながめて詩を贈りあうのがみえたので、よびつけて割って入ると、四人の娘たちは忽ち消えてしまった。さらに色々問い詰めると、書生は何も知らないといっていたが、家の者たちは相談して「庭園は広くて、樹々も多く、きっと花草の妖や、水石の怪などが居たのだろう。すぐにもとの家に送り返さないと、病になるかもしれない」といって、用人たちに送らせた。

家にもどされると、半年ほどして、四人の娘たちを懐かしんで、重い病になってしまい、いつもぼんやりとして、話も通じず、ぐったりとして、薬なども効かなかった。庭でそれをみた家の者は、書生の父母にそれを話すと、書生の父は何度も問いつけて、書生から話を聞きだすと、娘たちに贈られた釵などをしらべると、それはみな泥をこねてつくられたものだった。

書生の父は祟りがあるのを知ると、あの庭の隣にあった古い廟にいって、東の小さい間では、破れた幃幔(帳)などが垂れ下がっていて、詣でる者もなく、その帳をあげてみれば、巫山の神女を祀る大位牌と、その侍女として四美姬の像が並んでいた。東のものは釵が欠けており、右の二人は鐲(腕環)と耳飾りがなくなり、左の一人は前髪飾りがなくなっていた。書生の父はおどろいて、泥でつくられたものをかさねてみると、ぴったりと重なったので、すぐにその像を壊してしまい、用人に水の中に沈めさせて帰ってきた。それからひと月もせず、書生の病は治り、怪異も起こらなくなった。

蜀之眉州、……江上古廟一区、相伝為花蕊夫人費氏之祠。……廟近大姓鍾声遠者、富而好礼、……声遠女兄有子曰謝生璉者、亦巨室、来舅家就学。生儀容秀整、風韻清高、……鍾西塾後、創一園特盛、建碧漪堂・水月亭・玩芳亭・醉春館・翠屏軒於其内。生愛園幽雅、……一日偶自外回、忽見四女郎、年近初笄、娉婷窈窕、嬉戲於玩芳亭畔。生謂是諸表妹、遽前揖之、至則皆非也。女殊不羞避、笑語自若。生問之曰「小姐輩誤此来耶?」中一人応曰「吾姊妹東鄰花氏之女也。久聞芳園勝麗、奇卉芬敷、故相携就此一賞玩耳。」……至夜将睡、忽聞窓欞軋軋作声、……起視、乃日間所見諸女之一、闖然入戸。向生施礼、……款語低声云「奴等蒲柳陋姿、……偶得接見於光範、陡然忽動其柔情、……遂犯礼以私奔。」……言訖……相與媾歓、生戯問曰「彼三人何在?」 ……女曰「姑俟来宵、分此楽與諸妹耳。」……遂口占一詩曰「翠翹金鳳鎖塵埃、懶画長蛾対鏡台。誰束白茅求吉士?自題紅葉託良媒。蘭釭未滅心先蕩、蓮歩初移意已催。携手問郎何処好?絳帷深処玉山頹。」俄而兔魄将低、鶏声漸動、女攬衣起、……悄悄而去。
翌晚、……其妹共生親昵、語笑綢繆。妹性慧黠、亦復能詩、即為詩以贈生云「赤縄縁薄好音乖、姊妹相看共此懐。偶伴姮娥辞月殿、忽逢僧孺拝雲階。春生玉藻垂鴛帳、香噴金蓮脱鳳鞋。魚水交歓従此始、両情願保百年諧。」吟罷、女迤邐告回、生囑之再至。……是夕、……生即與三姨狎、且索其詩。答曰「愧無七步之才、又非二姊之敵、安有此能乎?」生固求之、乃吟曰「蘭房悄悄夜迢迢、独対殘燈恨寂寥。潮信有期応自覚、花容無媚為誰消。愁顰柳葉凝新黛、笑看桃花上軟綃。夙世因縁今世合、天教長伴董嬌嬈。」……次夜二鼓、四姨果盛飾……行夫婦之礼、設山海之盟、密訴幽情、亦成近体曰「每到春時懶倍添、緑窓慵把繡針拈。奇逢詎料諧鴛耦、吉卜寧期叶鳳占。鬢乱緑鬟雲擾擾、手籠紅袖玉繊繊。明珠四顆皆無価、誰似郎君尽得兼。」
由是以後、群女分番。生私念白面書生、獲此奇遇、一之已罕、況乃四焉。因作峨眉古意一篇以自慶。詩曰「峨眉古郡天下雄、煙巒雪嶺百千峰。鳥道縈紆通剣外、狼煙迢遞逗蠻中。巴江蜀水人間険、僰道滇池化外通。……交衢開市馳軽轂、広夏喬林開別墅。……美目盈盈溢秋水、長眉淡淡掃春山。春山八字争妍媚、姨姨妹妹皆殊麗。……琥珀枕辺盟誓存、玳瑁簾前燭燼昏。恋恋柔情随暮雨、依依好夢逐朝雲。……奇香縹緲満蘭房、終宵達旦恒芬芳。……幽懐密約付誰知、天長地久萬年期。願為蝴蝶長相逐、願学鴛鴦免別離。」
……既成、寫以示女。女……斉口称揚、……独大姊黙然、久之而嘆曰「奴四人為堂姊妹、皆閨閣処子、尚未議姻。……郎未免於娶婦、妾未得以従人。……鸞鳳分飛、……悠悠長恨、耿耿遐思、静念今日之深歓、恐成他日之大禍也。」諸妹聞之、亦皆欷歔而退。
又歲餘、父母果遣人取生回畢姻。女聞之、皆来就生為別、……四姨謂生曰「大姊往日之言験矣。……所願好合琴瑟、和諧伉儷、人生至楽、莫過此時。……奴姊妹尚當企踵盱衡、候郎於翠屏軒下耳。」即拔金掩鬢一雙致贐。三姊亦以翠鈿・銀鐲・耳璫奉上、曰「帰遺細君、少結殷勤之意。」各灑涙而別。
……抵家而婚期逼矣。燕爾既畢、家室甚宜、然四女之思、亦未嘗置。……妻帰寧、生孤枕独宿、忽夢與四女相見。……二姨四姨……取玉簫付之、……逡巡三奏。其音清而和、婉而嬌、幽怨而闃寥、似夕露之淒寒蜩、如秋雲之乘鮮飆也。姊亦斂黛、謳而和焉。歌曰「玉指兮冰容、写幽思兮訴深衷。嫋嫋兮餘音、駐彩雲兮明月中。」……三歌曰「紫簫咽兮夜無嘩、宝篆微嫋兮燭垂花。河欲没兮夜欲闌、聊逍遥兮暫為歓。脱花鈿兮収明璫、舒衾裯兮帰洞房。」……正傾聴間、忽角起譙楼、鍾鳴梵宇、……乃是南柯一夢。而且具憶其詞、因起而録之。即托以卒業、往舅家。
諸女幸生再至、眷顧倍加於昔。生與説夢中事、女曰「此夫婦相念之深、故形諸夢寐、無足怪者。」生留恋女、隻在斎房中、凡半月余、不與舅相見。舅疑之。一夕潜出、窺生所為、隻見生共諸女玩月、談笑方濃。遽入呼生、倏然驚散。随加詰問、終不肯言其詳。舅謂妗曰「園圃寬闊、竹樹繁多、豈無花月之妖、或有水石之怪。……急須遣帰、恐久則致疾也。」乃令僕送生還。既抵家、不半載、以思女之故、果成重疾。神情恍惚、言語支離、伏枕淹淹、久而不愈。声遠躬往視之、備以前事告於生父母。生父詢問再三、乃吐実、且出所得詩及金掩鬢等物、視之皆泥捏成者。父知其被祟……往花蕊廟、……過東廊一小室、幃幔蔽虧、人跡稀到、揭而観之、題曰巫山神女之位、塑四美姬象於其中。東坐者失一掩鬢、右二人臂缺二鐲、耳亡雙璫、左一人面脱花鈿両枚。其父大驚、取泥捏之物、置於旧処、皆吻合。即手碎其象、命僕沈之江中而帰。自此月余、生疾亦愈、怪魅遂絶。(明・李禎『剪燈餘話』巻四)

 ……長いですね(これでもけっこう削っている)。内容も、かなりぼかしているのですが、明代の怪談って、どれもこんな感じなんですよね……。

 あと、正直いって話として全然まとまりが良くないです(笑)そもそも、病の原因が、四人の娘への想いだったはずなのに、勝手に祟りのせいにして、その像を壊したら病も治った……って、よく分からなくないですか。

 でも、むしろ自然の霊威への憧れだったり、それを怖れる人々の横槍みたいな話って、明代の怪談にはけっこう多いです。そして、最後は怪異(自然の霊威)は敗れてしまうけど、そのまま怪異と仲良くしているのも幸せだったのでは……みたいな気分にさせられます。

 ちなみに、花蕊夫人(10世紀の後蜀の妃)は、詩をすごく好んでいたので、その侍女の四人も詩をたくさん詠んでいますが、それ以外でも明代の怪談って、怪異との詩の贈答がすごく多いんですよね。

 怪異との詩の贈答も、ひたすら甘美で、その代わりに異界に引き込まれる……みたいな話が多い中で、こちらの例ではもはや怪異の害が無くなってしまっているのが、すごく明代らしいなぁ……とかおもいます♪

 というわけで、明代の怪談についてまとめてみました。すごく雑に云ってしまうと、明代の怪談は『もののけ姫』みたいに、美しくて恐ろしい自然と、それを恐れる人間がいて、その折り合いが様々な形でつけられていく中で怪異が起こって……みたいなことが多い気がします(すごく雑な話だけど)

 すごく長い記事になってしまいましたが、お読みいただきありがとうございました。

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